お客様側の自己責任について

丸の内

プロフィールにあるとおり、私は営業部門に所属しています。お客様のご要望を伺い、それに対してどれだけ価値ある「提案」を出せるかが勝負となります。もちろん、そんな提案は一人で作れるものではありませんので、チームを組んで、案件ごとに「営業プロジェクト」として対応します。常に多数の案件がプロジェクトとして並行で走っていて、営業やソリューション担当者、コンサルティングサービス担当者等は案件ごとに、あるいは時系列で、異なった顔合わせで事にあたることになります。当然、自分の背負う専門領域や責任によって立場が異なり、意見のぶつかり合いになることもしばしばです。

今日もBW*1に関するアイディア出しの会議がありました。

顧客要件の詳細を話すことはできませんが、BWの内部テーブルを、アプリケーション層を介さずにSQLで直接コールしてよいかどうか、という議論になりました。
製品ベンダの論理からいうと、それはライセンス契約上できません*2。SAPはバンドルするDBMSベンダの再販業者にあたるのですが*3、SAPが再販することのできるDBMSライセンスは、SAPのアプリケーションを動かすためのランタイムライセンスのみに限定されているのです。従って、繰り返しになりますが、SAPソフトウェアが管理するデータにアクセスする場合には、SAPの提供するアプリケーション、あるいはSAPの提供する基盤の上に作られた*4アプリケーションを通して行う必要があるのです。これはR/3であっても、他のSAPアプリケーションであっても同じです。
全く外部のアプリケーションからSAPソフトウェアが管理するデータにアクセスする場合には、アプリケーション層で行う必要があります。直接DBMSSQLを発することはできません。
かなりくどく、「できません」と書きましたが、技術的にはできるはずです*5。ルール上、許可されていないのです。そのような前提にあるにもかかわらず、顧客ニーズが「DBテーブルの直接参照」であったときに、我々はどうしたらいいのか、が今日の会議の主題でした。

SAPが製品のベンダであるという立場だけだったら話は単純で、ルールを押し通せばいいはずです。しかし、お客様のために真剣に悩めば悩むほど議論百出。お客様の本当のニーズはどこにある、それに対してどういった解決策を導き出すのが正解だろう、サポートするときに障害が切り分けられるのか、ドイツ本社の開発者はOKは出すまいからだれがそのリスクを負うんだ、そもそもそのルールはベンダとしてのSAPの立場やDBMSベンダの立場から出ているだけであって、等等....いろいろな立場の意見が飛び交い、今日は結論を導き出すことができませんでした。

製品ベンダとそれを用いたSIerの顔の両方を持つから、話が厄介になっているかもしれません。単にSIerの立場であれば、ベンダの決めたルールなど意に介さず、過激なソリューション提案をするところがあるかもしれません*6。それはそれで、ひとつの解決策といえるかも...

などと考えながら、東京駅前で取り壊し中の新丸ビル角の交差点を、赤信号であるにもかかわらずふらふらと渡ってしまいました。考えながら歩いていたので、ボーっとしていたこともあるし、車もこないので平気だ、という思いもありました。事故ったら、そのときはその時。
でも、ルールを破るのはあまりいい気分ではありません。完全に自己リスクですしね。

と、その瞬間、昨年末のとある朝、出社時にその場所で見たある種異様な光景を思い出しました。
ちょうど朝9時ちょっと前ですから、当然、この場所から大手町方面に向かってたくさんの車が連なっているのがいつもの風景です。ところがその日はちょっと様子が異なっていました。交差点という交差点に、多数の制服の警官、それに眼光鋭い背広姿の男たち*7が立っています。年末の交通安全指導にしてはものものしいな...と思っていたら、不意にここから北に向かう車線に車が見当たりません。南に向かう反対車線は、いつもと同じように渋滞しています。あれ?不思議な光景だな...と思った瞬間、白バイに先導された黒塗りの高級乗用車*8が2台、大手町方面にむけてスーッと走り去っていきました。ん?前方の信号がずーっと青になっています。もちろん、交差点で止まることなどなしに、その短い隊列はスピードはさほど出ていないにもかかわらず、あっという間に見えなくなってしまいました。
ここに立っていた制服の警官が、ホッとした顔で、制帽を脱いで額の汗を拭っているのが印象的でした。

道路を通行するにもルールがあります。人も自転車も自動車も、誰が作ったものかわからないけれども、そのルールを守らなければなりません。緊急車両は赤信号の交差点にも突っ込むことができますが、それもルールの内です。
ルールを作り、皆がそれを遵守しているかチェックする側がそれを破っているようでは、一般市民のルール遵守のモラルが低下してしまいます。

その大切なルールを破って赤信号を渡るのは、その人のリスクであり、また他人をそのリスクに巻き込むことにもなりかねません。
赤信号で渡っていながら、いざ事故を起こしたときに、警察や消防、救急病院へ助けを求めるのは身勝手といわれても仕方がありません。ただ、人間は弱いものですから、事故を起こしたときに全面的に自分の赤信号無視がすべての原因だと認めることはなかなか難しいものだと思います。「赤信号で渡ったかもしれないけれど、もう青に替わる直前だった」とか、ひどいのになると「いや、信号は青だった!」と主張する人もいるかもしれません。そのために、警察は手間をかけて現場検証を行います...

ルールは自分のために都合よく変更したい。でも、絶対事故を起こしたくない。というのであれば、自己責任で全額、リスクを回避するためのコストを負担すべきだと思います。
一度決めたルールを、特定の人だけに緩用するのは、一般の人のモラルを低下させます。それは大事故や事故多発につながり、大変危険です。

なんだか、いつもの記事とニュアンスのずいぶん異なる内容になってしまいました。売る側もいろいろなジレンマに陥りつつ、どうしたらお客様が納得してくださるか、日々悩んでいるのです......

*1:Business Information Warehouse。SAPのDWH

*2:言い回しが微妙。技術的には、という言葉を飲み込んでいる。

*3:実はSAPはOracleIBMDBMSの再販業者という立場でもある。知らない人もいるかもしれない...

*4:アドオン、もしくは、モディフィケーション

*5:私は実際には試していないので、以下、「できる」という言葉は「理論的にはできるはずだ」、というニュアンス

*6:ただ、製品の使用契約に反するので、ベンダとしてのサポート対応でもめることが予想されます

*7:普通サラリーマンは急ぎ足で歩いています。彼らは留まっているのですぐわかる

*8:ナンバーの代りに菊の紋が見えた、気がする