神の視座

本日もまた、ウルトラ・ダラー p.119から。

「(前略)末端の捜査員たちは、ひたすら情報だけを追い求める。それが上層部の評価を得ることにつながりますからね。貴重なインテリジェンスをCIAとの接触から得られるなら、公安警察も見返りに相当な情報を渡すのでしょう。」
 高遠は、(中略)これこそが最重要のインテリジェンスだと示唆してくれたのだった。

引用というか、この抜粋だけ読むと文脈を誤解しそうなので、是非本書に触れてみて欲しい。ここでは「インテリジェンス(=神の視座)」を含む、ごく一部だけを引用させてもらった。
Enterprise SOAの話をする時に、我々を取り巻くビジネスモデルが変りつつあることを前提とすることが多い。これまでのビジネスモデルをHARD-WIRED VALUE CHAIN、すなわち固定化された価値連鎖として表現し、そして、今必要とされているのがADAPTIVE BUSINESS NETWORKS、ビジネスの変化に柔軟に対応可能なネットワーク形態、というものだ。
この文字面だけを読んでいても、多分ワクワク感は伝わらないだろう*1。ADAPTIVE BUSINESS NETWORKSにワクワクするためには、想像力を働かせることが必要だ。
それこそ、自社に有利な「インテリジェンス」を得るためには、場合によっては、CIAや公安警察との情報取引も必要かもしれないではないか。
定型のプロセスからは一定品質の結果が継続的に得られるだろうが、そこにはサプライズや独創、差別化にむけた特別なものは何もない。もしかしたら、社長在任中に一度だけでもいいから、大きな決断を確実に後押しできるような「インテリジェンス」がITから得られたら、それ一回だけでITの開発・運用工数なんて簡単にペイすると思われる。
社長の「インテリジェンス」が紹介された、日経朝刊の「私の履歴書」がある。今月は信越化学工業社長の金川千尋さん。5/28の第27回に社長の仕事ぶりが書かれていて、とても興味深い。

    • 塩ビ事業では変動相場を読むのが難しい。塩ビを出荷する貨車の「動き」に注目している。月末近くにバタバタと出て行くときは、需要家の調達意欲が落ちている"信号"であることが多い。
    • 大口需要化が購入量を増減させた時も大きなヒントが潜んでいる。得意先の「生の声」を必ず報告させ、大きな潮流になるのか、一時的変化なのかを分析して対策を講じる。
    • 経営には相場観とスピードが不可欠。2000年のITバブルの頃には、通常二年かかる合成石英プリフォーム*2の工場建設を6ヶ月で建てた。
    • 一方、ITブームがいずれさめることも確信していた。長期の製品引取りの確約を全顧客に求め、了解を得た。
    • 96年半ば、金利が上がる可能性もあったので、社債発行計画を作ってもらった。約1000億円を非常に有利な条件で調達できた。

ここでは金川社長により自らの「インテリジェンス」が披瀝されている。ごらんの通り、バラバラだ。視点は塩ビを出荷する貨車の動きに向けられたり、金利動向だったり....多分、複数のチャネルに網を張って、そこから挙がる多数の情報から、本当に役立つ「インテリジェンス」を抜き出す人*3の活躍があってのことだろうと思う。
よくIT投資に対するROI*4の予測を求められるが、八卦のようなものかもしれない。
逆に、もし、金川社長への進言のような貴重なものが社長の在任中にひとつでも見つかれば、それだけでITコストはペイしたも同じだろう。

*1:私のような「製品・ソリューション紹介者」は、得てしてこんな面白くない表現を用いる傾向にある。自戒の念をこめて。

*2:光ファイバーの素材

*3:もしくはIT?

*4:Return on investment