Opening Keynote Speech - ZF : Motion and Mobility – ZF Innovation Today and Tomorrow

初日キーノート。Dr. Konstantin SauerはZFのボードメンバーで、財務・IT・M&A・地域としては北米を管掌。

話が始まってすぐ、担当しているお客様を連れてこられなかったことを激しく後悔した。ビジネス戦略からIT戦略につなげる部分を講演。
少し前に読んだこの本に

ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国

ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国

「金を払って人に会う米国人、タダでも会わない日本人」という強烈な項目があるが、やっぱり直接話を聞けるというのは価値が高いと思う。私のブログを見てくださるのも有難いが、やはりそこは古澤というバイアスが強くかかっているので、会場で経験するのとは全く密度も内容も違うはず。個人の興味はそれぞれ全く別のところにあるのだから「金を払ってでも」自分で参加することと、参加者の話を聞くのとは別の経験と呼ぶべきだろう。ほんと「百聞は一見にしかず」とは、よく言ったものだ。
それはともかく、内容。

ZF社はいわゆる自動車の大手サプライヤーの一社で、2000年ころからM&A戦略によって SACHS CHERRY Hansen などを買収。事業拡大も相まってサプライヤの規模ランキングで2000年19位から現在第9位までのし上がってきた。車両メーカーに供給しているものは、パワートレイン、電子制御系、シャーシ

  • ビジネス戦略はどのようにして立てるか。経営者には当たり前かもしれないが、その戦略を受けてIT戦略を考える、いわゆる「下流」担当としては、上流のものの考え方に興味津々なのだ。
  • 話されたことは正攻法で、グローバルメガトレンドから、それを自分たちの関係領域に集約したメガトレンドを読み、さらに地域性(US, 中国, 日本, ブラジル, インドなど。どこもそれぞれの要件があるのだ)を加味して取り組むべきイニシアチブ(新たな取り組み)を選定。効率性(投資額と得られるであろうリターン)で評価して優先順位付けをする、というものだ。
  • グローバルメガトレンドは次の4視点
  1. 社会性と環境
  2. 政治、法律、経済
  3. マーケットの推移・変遷と顧客動向
  4. 新技術と製品・商品性

例えば、マーケットの推移・変遷では、このようなグラフが示された。あの2009年を境に、全く世界の様相が変わってしまったのだ。北米、欧州が現状維持の中、ひとつ中国だけがとんでもない右肩上がり。これはそれら地域で生産された/生産されるであろう車両の台数を示している。

またどうしても目につくのが、他の地域が漸増しているのにもかかわらず、ただ一国、2020年に向けて生産台数が少なくなっていくのがわが日本。SAP社内の勉強会でも、こういうメガトレンドについての話があった。その時は2014年から2020年を見たとき、日本だけが-19%成長、あとの国・地域はプラスと聞いて、何か統計が間違っているのではないかと感じていたのが、改めて打ちのめされた感じだ。
それはともかく、こういったメガトレンドから、自社の経営戦略を立てているんだなぁという背景が改めて確認できた。そして、こういう内容を講演してくださることに改めて感謝。これだけでも参加した価値があったと感じた。
で、それらメガトレンドから、ZFとしてどう立ち向かうのか。"ZF2025"という長期戦略は5本柱。

  • バランスをとってマーケット浸透を図る
  • 収益性をもとめて多角化
  • 財務は独立性を保つ (特定の車両メーカーに依存しない)
  • 世界から優秀な人々に集まってもらえる会社にする
  • そのためにも、あるいは、上記によって、イノベーションを起こし、コストリーダーシップを確立し、ZFとしてのユニークな市場ポジションを確保するのだ。

Dr. Sauerは、こういった内容を、力強く...ではなく、淡々と話していく。実に当たり前のように。

では、「イノベーションをお越し、コストリーダーシップを確立する」にはどうしたらいいのか。
Dr. Sauerは"Price Transparency"と言った。それにより競争力を生み出す。と。また、イノベーションは "Products と Serviceの組合せから生まれる" とも。
商品でいえば、非常に効率の良いAT(Automatic Transmission)やCVT(無段変速機), 電装/電子制御系, 今大流行(?)のコネクティビティ (「つながる」クルマ)。車両メーカーがプラットフォーム戦略を採るがゆえに、車の差別化要因はこういった部品系が担っている、という自負と自信が垣間見られた。
そして今は、ITが商品としてのクルマ、サービスとしてのクルマのいたるところに使われている。センサーから出る情報、それらがタブレットなどで自由に確認できる。それを可能にしているのが、標準インタフェースを採用した "Openmatics Platform" 。
更にその外側に、顧客サービス(メーカーとしてのサービス、金融、運行管理など)、Googleなどの外部サービスなどがあり、それらが一つになって「顧客にとってのクルマ」が位置づけられる、と表現された。
これは、豊田章男社長が「車は、走る・曲がる・止まる・つながる」と表現されていることと同義なのだと思う。それをもう少しかみ砕いて解説してくれた感じを受けた。
非常に印象に残ったキーノートだった。

Dr. Sauerの後を受けて、IT責任者のPeter Kraus氏がIT戦略について講演 "Service Center IT"という表題。
ZFのITランドスケープ。Navisionなどは買収会社にあったものをそのまま流用。

ポータル、BI、EAI、プラットフォームサービスなど基盤系は、SAP NetWeaverを使っている、と表示されたのが、2003年SAPがNetWeaverを世に送り出した頃の4層の絵。

このアーキテクチャに将来がある!と、あの頃、熱を上げていたことを思い出すとともに、この考え方を堅持し、そのまま10年後の現在も継続して活用してくれているのだというところに胸熱。
そして今後。ビジネスの長期プラン(ZF2025)を受けて、IT側では "2025 Materials Management" を策定。サプライチェーンパフォーマンスを透明にするために次の3点を柱とした。

  • サプライヤとのやり取りを100%電子化すること。そのために単一の共通プラットフォームをすべてのサプライヤに提供する。
  • プロセスの自動化とレポーティングの自動化のために、標準化と最適化を図る
  • システムがサポートするグローバルサプライヤ管理を確立し、サプライヤの「ライフサイクル管理」を行う

ZF2025の「バランスをとってマーケット浸透を図る」という方針に呼応しているように思う。標準化したパーツを、世界でもっとも最適化された場所で信頼のおけるサプライヤから調達する、というビジネス戦略を支えるのが "2025 Materials Management" なのだ。
透明化されたサプライチェーンの様子は、ダッシュボードで見える化する。
過去、カスタマ、サプライヤ、ディーラーなど分散管理されていた(歴史的背景で分散管理せざるをえなかった)マスタ類は一元化を図り、分散配置されているERPのクロスファンクションとして、BW, MDM, SRM, APOなどを共通化。ガバナンス委員会もそういう方針で一新したという。このあたり、数年前からの取り組みとは言うが、なんだかSAPの「教科書」を見ているようで、本当にこんなに綺麗なの?と、正直思ったが、まぁそこはキーノートだ。
逆に、HR人事系システムの考え方は、2014年の取り組みでも、Global HR CoreからHR IT Brazilが分かれていて面白いと思った。逆に、人事レポート系は Global HR Reportingに一元化されていて、 ZF2025の 「世界から優秀な人々に集まってもらえる会社にする」 を具現化するITとして注目すべきだ。

実りの多いZFキーノートであった。