内部統制にはSAP

会計担当の同僚Y氏がちょっと前の面白いコラムを見せてくれた。「旬刊経理情報」という*1雑誌の2005.3.20号に掲載されていた、愛知工業大学教授・岡崎一浩氏の「文書管理は徹底していますか?」というのがそれだ。
ちょっと探してみたら、PDFで参照できた。
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1078/3_20-4.pdf
雑誌のホームページにしてはちょっとセキュリティが甘いかな。でも、ありがたい。

最近よく耳にする「内部統制」とは何だろう。そもそも内部統制を担当する人の顔が見えない。

という問題提起から論旨が展開されていく。
内部統制を実質的に担当しているのはシステム部であり、彼らは「モノ」「カネ」「ヒト」の三部門の情報を握っている。「ヒト」の情報を握っているとは、すなわち、ユーザに対する情報のアクセス権限を統制するものであり、その気になれば悪用も可能。なぜなら彼らは技術者だから。
彼らは能力がある限り再就職が容易である*2経理マンの転職が容易でないのと比較すれば大いに違う。嫌気がさせば辞めることが可能である。すなわち、意に沿わない不正に手を染める必要がない*3エンロンの場合、システム部を経由せずに経理トップだけで粉飾を行ったらしい。

こっそりと深夜に会社のために巨大データベースの不正操作をする全米最高クラスの頭脳で高給取りのコンピュータ技術者がいるのか、ということだ。

これは「コンピュータ技術者に対する性善説」の最たるものであり、かなりの暴論であると思う。だいたいがコンピュータ技術者の給与というものを高く夢想しすぎだ(苦笑)。
確かにシステム部門を巻き込んで会社の粉飾を行うのは難しい。これに対しては同意する。技術者は論理的に正しいものを愛す傾向にあり、どこかに不正を施すことにより全体のつじつまが合わなくなることを嫌う傾向にあると考えるからだ。また、2ちゃんねるのような「匿名告発システム」を使って、自分は傷つかずに不正を晒すこともお手のものだし。*4
ところで岡崎教授のコラムの論旨は、ここにとどまらない。後半、さらに驚きの展開を見せるのだ。

システム部がシステムの自社開発をせず、多くの企業が使っている汎用性のある外部調達品で間に合わせるのである。内部統制にこれを利用しない手はない。それがERPであり、とりわけドイツ製の企業統合ソフトSAPである。

まるでSAPから何か提供でもあったかと勘繰ってしまうような.....何もなかったと信じるが。

SAP製品は、どちらかといえば不器用なソフトと見えるが、勝手に手直しを認めないところが安心である。他方、日本の市販ソフトには仕訳日でもバックデートできるものが多く見られ、これは論外である。そもそも青色申告での帳簿といえるのかどうかさえも本来は疑わしい。

え゛。仕訳をバックデートで上書きできるソフトがこの世にあるんですか!? なぁんて驚いてみてもいいですか。不器用なソフトウェアでよかった(笑)
岡崎教授、さらに筆がすべるすべる。

自社製のソフトの場合、内部統制リスクが高いと頭から疑われる。SAPには追い風である。だから世界の王者SAPに危機感をもった米オラクル社がERPのピープル社を買収して対抗しようとしている。

何もそこまで持ち上げてくれなくても.....ERPというか、業務アプリケーションの競争エリアは「内部統制」だけじゃないんだけどな。でもまぁ、SAPという不器用なソフトに対して、こういう見方をしてくださる方もいらっしゃるということで。ありがたいことです。

(将来2001年のエンロン事件を振り返ると)コンピュータによる文書管理が徹底し、重点が監査報告書から内部統制報告書に移った契機として記憶されることになろう。若い人であればSAPの講習会に自腹を切ってでも参加すべきである。

.....自腹を切ってでも、ですか。個人負担するにはちょいと高いですよ、ホントに。
コラムの後半で、SAPの褒め殺しですか、といいたくなるほど持ち上げてくださるのは有難さを通り越してこそばゆい感じがしないでもないのですが、多分、この岡崎教授は本当にSAPに惚れてしまわれたのでしょう。文章に「恋心」が感じられます。
我々のようにSAPの世界にどっぷり浸かっていると、こういうピュアな感動を忘れがち。

    • 受注を登録する前に、自動で顧客与信がチェックされる。
    • 受注→出荷→売り上げ計上、と、決められたプロセスを踏まないと伝票登録すらできず、会社のオペレーションが回らない。

などなど、どれも当たり前すぎて、最近では、あえてお客様に紹介することもなくなっていた。
しかし今こそ、「内部統制」という視点で、この不器用なSAPというソフトウェアの価値を改めて訴求する必要があるのではと思いなおした次第。岡崎教授、ありがとうございました。

*1:私などはその存在すら知らなかった

*2:これに対して、私には異論があるが

*3:経理マンが不正を行いがちかどうかについては述べられていない

*4:もちろん、これも暴論であり、すべての情報システム部員に適用できるわけもない。「昔は手作りのシステムだったから、役員に頼まれて架空の給与明細を毎月作ったものだ」と笑いながら私に教えてくれた方もいるし、2ちゃんねるを見たこともないIT屋もいるはずだ。